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夏着物・浴衣の仕舞い方 決定版——汗抜き・丸洗い・虫干しの使い分け

夏に袖を通した着物や浴衣。たたんだまま置いていませんか。

まだ間に合います。そして、完璧に仕舞わなくても大丈夫です。大事なのは優先順位。何から手をつけ、何を省いていいのか。そこだけはっきりさせましょう。

着る技術は語られるのに、仕舞う技術は語られない

着付けの動画は無数にあります。半衿の付け方も、帯結びのコツも。

けれど「シーズンが終わった夏物をどう仕舞うか」を最後まで教えてくれるものは、驚くほど少ない。

着物は、着ている時間より仕舞われている時間のほうが長いのに、です。

 

まず、最低限これだけ

(図1|仕舞う手順の、優先順位)

 

・風を通す ⇔ 脱いだら着物ハンガーへ。陰干しで2日ほど

・汗の場所を覚えておく ⇔ 脇・背中・衿

・乾いてから仕舞う ⇔ ビニール袋には入れない

虫干しができなくても、たとう紙を替えられなくても、この3つが守れていれば大きな失敗にはなりにくい。あとは余力しだいです。

 

脱いだ日にすること

すぐにたたまないでください。体温と湿気が生地に残っています。

着物用ハンガーに掛け、直射日光の当たらない場所で陰干しを。着用後は2日ほどの陰干しが勧められています。長期保管の前は、あわせてクリーニングを検討してください。

あわせて見る箇所は3つ。

・衿の内側 ⇔ ファンデーション、皮脂

・袖口と裾 ⇔ 泥はね、擦れ

・脇と背中 ⇔ 汗

シミを見つけても、こすらないでください。水や洗剤をつけると輪ジミや色抜けの原因になります。位置に付箋を貼って、そのまま専門店へ。

 

汗は、丸洗いでは落ちません

(図2|三つの「洗い」の使い分け)

名前の似た3つは、中身がまったく違います。

丸洗いは、仕立てたまま石油系の溶剤で洗う方法。洋服のドライクリーニングと同じ仕組みで、水は使いません。絹は水に濡れると縮みや型崩れを起こしやすいためです。

得意なのは皮脂やほこりなどの油性汚れ。裏を返せば、水性の汚れには届きません

汗抜きは、水を使う工程を加えるお手入れです。汗には塩分が含まれ、絹は塩分に弱い。残したまま時間が経つと黄変(おうへん)の原因になるとされています。

洗い張りは、解いて反物に戻し、水と洗剤で洗う方法。水性も油性も落ちますが、仕上がりは反物。仕立て直しが必要で、費用も日数もかかります。

つまり、毎年の仕舞いで使うのは丸洗いと汗抜き。洗い張りは、寸法直しや古いシミ・カビへの対処です。

※呼び名や内容は店によって幅があります。持ち込む際に、汗抜きに対応しているか確認を。

出すかどうかの目安

・出したほうがよい ⇔ 汗をかいた自覚がある/長時間着た/絹もの

・急がなくてよい ⇔ 短時間で汗の記憶がない/自宅で洗える素材

厄介なのは、汗染みが着た直後には見えないこと。数年後に気づきます。

優先は長襦袢です。肌に最も近く、汗を吸っています。予算が限られるなら、まずここから。

 

自宅かプロか

(図3|自宅で洗える? 素材別の目安)

まず洗濯表示を確認してください。迷ったときの原則はひとつ。

戻せない失敗を、自分でしない。

縮んだ生地は元に戻りませんが、クリーニング代は払えば済みます。迷ったらプロで構いません。

 

浴衣を自宅で洗う

綿・ポリの場合です。

・色落ち確認 ⇔ 濡らした白布を当てて色移りを見る

・袖だたみでネットへ ⇔ 型崩れとシワを防ぐ

・中性洗剤・手洗いコース

・脱水は30秒〜1分 ⇔ かけすぎがシワの最大の原因

・すぐ出してたたく ⇔ 衿と肩の形を整える

・陰干し ⇔ 乾燥機は縮みと型崩れのもと

 

アイロンには必ずあて布を。縫い代がテカります。

帯は別扱い。絹の半幅帯や兵児帯は洗濯機に入れず、風を通して専門店へ。半衿・肌着・足袋はその都度洗って構いません。

 

虫干しを、今の気候でどうするか

伝統的には年2〜3回。土用干し(夏)/虫干し(秋)/寒干し(冬)です。

とくに土用干しは、7月下旬から8月上旬。梅雨明けの乾いた高温を使って、たんすの湿気を飛ばす——それがこの作法の設計思想でした。

けれど、その前提はもう成り立ちません。

気象庁の発表によると、2026年は7月中旬から下旬にかけて西日本を中心に顕著な高温となり、7月中旬と下旬の西日本の平均気温は、統計を開始した1946年以降で最も高い記録となりました。最高気温40℃以上を指す「酷暑日」は8月3日時点で延べ34地点にのぼり、比較可能な2010年以降で最多です。

昨年も同様でした。2025年夏の日本の平均気温は、統計開始の1898年以降で最も高くなっています。東京の猛暑日は年間29日。平年値4.8日の6倍です。

つまり、土用干しに適した「乾いた高温の日」を待っていると、干す機会そのものを逃します。

そこで、現代的なやり方を提案します。

・日 ⇔ 晴天が2〜3日続いた翌日。雨や台風の直後は避ける

・時間 ⇔ 午前10時〜午後3時ごろ

・場所 ⇔ 屋外にこだわらない。直射日光の入らない室内で可

・エアコンを使ってよい ⇔ 除湿運転の部屋で干す。湿度を管理するという点で、むしろ理にかなっています

・サーキュレーター ⇔ 風を着物に直接当てず、空気を回す

・たとう紙も一緒に干す

窓を開けて風を通す——この一点にこだわらなくていい、と考えてください。土用干しの目的は湿気を抜くことであって、外気に当てることではありません。目的が達せられるなら、手段は現代の道具でかまわない。

全部出す必要もありません。引き出しひとつ分でも十分です。

そして虫干しの本当の価値は、乾かすことより気づくこと。シミやカビは早く見つけるほど直せます。

(暦と気候のズレについては「6月と9月は単衣」を決めたのは誰か──衣替えカレンダーと気候のズレを紐解くでも扱っています)

 

来夏までの保管

たとう紙

1〜2年で交換が目安。

・黄ばんでいる

・茶色い斑点がある

・波打っている

・においが気になる

紙のシミは着物に移ります。汚れているのは湿気を引き受けてくれた証拠です。

防虫剤

・種類を混ぜない ⇔ 併用は化学反応でシミや変色を起こす可能性が指摘されています

・直接触れさせない ⇔ たとう紙の外へ

・匂い袋は避ける ⇔ 香料成分による変色事故の報告があります

使う場合は一種類に絞り、あわせてウール製品と分けて仕舞うとより安心です。絹は虫の好物ではないという専門店の見解もあります。

置き場所

・桐たんすが理想。なければプラスチックケースで可

・床に直置きしない。すのこを一枚

・除湿剤を入れる(防虫剤とは離して)

・詰め込まない

・ビニールのカバーは外す ⇔ 湿気がこもります

 

完璧でなくて大丈夫です

もう一度。風を通す。汗の場所を覚える。乾いてから仕舞う。

これで上出来です。汗抜きは次に着る前でも間に合います。虫干しは来年の秋でも構いません。

着物は思っているより丈夫です。ただ、湿気と汗だけは時間が経つほど取り返しがつきにくい。そこにだけ気を配ってください。

 

まとめ——来年の着姿は、今年仕舞う瞬間に決まる

来年の夏、たんすを開けて何が出てくるか。それを決めているのは、来年の自分ではなく今年の自分です。

黄変した脇も、カビの匂いも、今日の30分で防げたかもしれないことでした。

仕舞う技術は地味です。誰も動画にしません。褒めてもらえることもありません。

けれどキモノプラス編集部は、これを着る技術と同じ格の技術だと考えています。着られる人ではなく、着続けられる人になる。その分かれ目が、シーズンの終わりにあります。

今年の一枚を、来年のあなたに手渡してあげてください。


出典・参考

 

※お手入れの可否は素材・仕立て・状態によって異なります。迷う場合は購入店または着物専門のクリーニング店にご相談ください。

文:キモノプラス編集部